商船の基礎知識

1.船の長さ

いろいろな書物をみると船の長さを単に「長さ」とだけ書いてある場合が多いのに気づきます。この分野では造船出身の方が多いので「長さ」イコール垂線間長を意味することが多いようです。これは商船の設計をする上で垂線間長が重要であるからです。しかし一般の方の中には「日本船名録」や「Lloyds Register of Shipping」に掲載されている数値を垂線間長と誤解されている方も少なくないように思われます。「日本船名録」や「Lloyds Register of Shipping」に掲載されている数値は登録長です。登録長は多くの場合、垂線間長とは異なる値をとり台形をひっくり返したような形の日本国籍船であれば、「全長」>「登録長」>「垂線間長」となります。このことを理解せず、よく「書物によって長さが違う」などとおっしゃる方がいますが、定義が違えば長さが異なるのは当たり前です。

前部垂線とは船首材の前面で外板の外面の線と計画満載吃水線との交点を通る垂線。
後部垂線とは舵柱後面を通る垂線。舵柱のないものは舵頭材の中心を通る垂線。

nagasa(図の出典:「海と船のQ&A」(成山堂書店)上野喜一郎著)

垂線間長と似た発音の水線長というものがありますが、普通、軍艦の尺度に用いられ、商船に使われることは殆どありません。

垂線間長は計画時の満載吃水線に基づき算定されますので、一つの船について寸法が変わることはありませんが、満載吃水線規則の改正により満載吃水線の位置が変われば、全く同じ形をした船でも規則改正前に設計されたものと規則改正後に設計されたものでは数値が変わってしまう可能性があります。1930年に満載吃水線条約が採択されてからは、ほとんどの国で同じ尺度となりましたが、国際条約を締結していない国や条約発効前では各国の規則によったので、国籍によっても数値が変わる可能性があります。従って、時代や国籍の異なる船どうしの長さを垂線間長で単純に比較することはできません。

登録長の定義も実は日本船に対するものであり、各国毎にその定義は異なります。戦時中の登録規則についてはきちんと調べていないので不明ですが、手持ちの1985年当時の資料では、英国船・諾威船>米国船>日本船となります。これは、日本船が上甲板下面からの長さを基準としているのに対し、米国船が上甲板上面からの長さ、また、英国船・諾威船は船首最前端からの長さを基準としていることによります。従って、「Lloyds Register of Shipping」で外国船と日本船の登録長をそのままの値で比較することはできません。

水線長も、各国毎に定義が異なり、また、日本船でも時代によって定義が異なります。「日本の軍艦」(福井静夫著)によれば戦後の自衛艦では、米国海軍式に計画吃水線後端を後部垂線としたため垂線間長と水線長は同義になったとのことですが、大東亜戦争中では両者は異なる値をとりました。

結局のところ異なる船で長さを普遍的に比較できるのは全長のみということになります。軍艦と商船の長さを比較するときも長さの定義を十分考慮して行う必要があります。

この他に吃水線長や鋼船構造規程による長さ、満載吃水線規則による長さなどがありますがここでは省略します。関心がある方は「船体関係図面の見方」(成山堂書店)をご覧になられると良いでしょう。

本サイトでは原則として「長さ」に「登録長」を使用しております。市販の書籍等で本サイトに記載の長さと異なる長さが書かれている場合、本サイトのものより長ければ「全長」、短ければ「垂線間長」と推定することができると思います。


2.船の巾

「長さ」と同じく船の幅もまた単に「巾」とだけ書いてある場合が多いようです。「長さ」に比べればそれほど大きな違いはありませんが、船の幅にもいくつかあります。設計上重要なのは「型巾」で、通常単に「巾」と言う場合「型巾」を指す場合が多いようです。一方、運河などを通行する際には全巾が重要な意味をもちます。


3.船の深さ

ここでいう基線とは中央横断面において平板龍骨の平坦部上面から隣接する船底外板の厚さだけ上方の点を通る水平線をいい、結果として「登録深さ」>「型深さ」となります。なお、満載吃水線規則に定める「型深さ」については定義が異なります。


4.船のトン数

船の噸数について語ると長くなりますので詳細をお知りになりたい方は、「海と船のQ&A」(成山堂書店、上野喜一郎著)をお買い求めになるのをお勧めします。ここでひとつだけご注意申し上げたいのは、商船は総噸数で表され、軍艦は排水量で表されることが多く、両者の単位が全くことなることです。間違っても「商船10,000t、軍艦10,000t、あわせて20,000t」などということは言わないでください。船の場合、統計をとるにあたって隻数よりもトン数で表すことが多いと思います。しかし本データベースでは特設艦船の数を何隻と書いても何トンとは書いておりません。これは特設艦船に特設輸送艦や特設砲艦「南陽」といった排水量をベースにしたものが混じっており、筆者のような素人には総噸数への換算ができず足し算できないためです。因みに前述の「海と船のQ&A」によりますと総噸数や排水量にも一定の関係があって総噸数100に対して排水量は210(200〜230)、載貨重量が150(120〜200)ぐらいになるそうです。海軍の公文書で戦利船のトン数が過大に書かれてあるものがありますが、これなども総噸数を排水量もしくは載貨重量と混同しているものと思われます。


5.主機出力


6.馬力

主機出力の単位として馬力を用います。馬力には英馬力(PS)と仏馬力(HP)があり、1PS≒0.9863HP≒735.5Wです。
同一馬力でも主機関の種類によって出力の測定方法が異なるので、これらを区別して表示することもあります。

また、本サイトで扱う公称馬力とは船舶職員法により定義されるものです。昭和四年法律第46号による船舶職員法の改正で機関長と機関士は機関出力の大きさによってそれぞれの資格・定員が定められました。その機関出力を定義された式を用いて算出したものが公称馬力です。(国立国会図書館デジタルコレクションに「公称馬力算定方法」という本がありますので算式はそれで調べてください。)
Lloyd’s Register of Shippingに出てくるRHP (Registered Horse Power)とは英国籍の登簿上のNHPです。NHP(Nominal Horse Power)は日本の公称馬力とは別の数値です。大戦中のLloyd’s Register of Shippingはhttp://www.plimsollshipdata.org/で公開されておりますので、詳細は原文をご参照ください。


7.船の速力

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