特設運送船

はじめに

特設運送艦、特設運送船及び一般徴傭船については、まとまった資料がないせいか、誤った使用例を多く見受けます。ここではそれぞれの違いを簡単にご紹介します。

特設艦船と一般徴傭船の違い

特設艦船と一般徴傭船の違いを一言で言えば艦船固有の職員(軍人)が配置されるかどうかです。特設艦船は「特設艦船部隊令」に基づき種別、配置される職員、その職務が規定されておりました。一方、一般徴傭船に艦船固有の職員(軍人)は配置されません。一般徴傭船にも軍人が乗船することがありましたが、これは海軍警戒隊のように艦隊や鎮守府部隊から派遣された部隊であり艦船固有の職員ではありません。

特設艦船は有事の際に不足する正規の艦船を補う兵力であり、内令で定められ、ほとんどの特設運送艦船は戦時編制で補給部隊に編入されました。

一般徴傭船とは正式には「特設艦船に非らざる一般徴傭船舶等」と言い海軍が特設艦船に充当する以外の目的をもって必要に応じて船主から借り受けたものです。内令をもって海軍兵力に組み込まれるわけではなく、戦時編制に船名が掲載されることはありません。「特設艦船部隊令」の適用を受けませんから種別されることもありません。

特設運送艦と特設運送船の違い

特設運送艦と特設運送船の違いを一言で言えば、特務艦長が乗船するか否かです。真珠湾攻撃のときの補給隊で「極東丸」のみ特務艦長の名前が記載され、他の油槽船は空白となっているのを疑問に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?これは「極東丸」のみが特設運送艦であり他の油槽船が特設運送船であるためです。

特設運送船は「特設艦船部隊令」制定当初からある種別で原則として徴傭船舶固有の船員と少数の軍人が混乗します。また、用途に従い、給兵船、給水船、給糧船、給炭船、給炭油船、給油船、通信船、雑用船に細分されています。この細分は内令ではっきり示されます。

特設運送艦は昭和14年11月に設定された種別で「特設艦船部隊令」により「艦船令」中の特務艦の規定が準用されました。原則として特務艦長以下の軍人が船を運航し軍艦旗を掲げました。特設運送船のように用途に応じた細分はありません。「補給部隊編制表」では、特設運送艦も運送艦や特設運送船とともに用途を示す種別が掲載されておりますが、特設運送船と違って内令で定められているものではありません。

当初、特設運送船は軍用船旗を掲げ軍艦旗を掲げなかったので、これも特設運送艦と特設運送船の違いの一つでした。しかし監督官が指揮官と改められ指揮権の有無が明確化されると昭和18年7月20日付軍務一機密第594號で「指揮官ヲ置カレタル特設運送船等ノ旗章掲揚ニ關スル件」という通牒が出され、指揮官の乗船する特設運送船(甲)に関しては「特務艦ニ準ジ旗章ヲ掲揚スル」こととされ軍艦旗を掲揚するようになりました。

特設運送船(甲)と(乙)の違い

特設運送船には甲、乙の別がありますが、その違いを一言で言えば、監督官(昭和18年5月25日より指揮官に変更)が乗船するか否かです。ただし戦争後半になると「嚴島丸」のように甲とされても実際には指揮官が置かれなかった例もあるようです。正確には「特設運送船(甲)ハ監督官ヲ置クヲ例トスルモノ」をいい、「同(乙)ハ状況ニ依リ兵装ノ一部又ハ全部ヲ省略シ竝ニ監督官ヲ置カズ特務士官、准士官又ハ下士官連絡員ノミヲ配置スルコトアルモノ」をいいます。(補給部隊編制表・記事より)。戦時編制の中で補給部隊に編入されたものはこの甲・乙の別が明確に示されますが、外戦部隊や内戦部隊に編入されたもの、例えば支那方面艦隊附属の「牟婁丸」は戦時編制の中で区別を知ることはできません。

 

*****